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人工知能のはなし<前編>

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お久しぶりです。D1の星です。

今回はちょっと趣向を変えて、近年話題の人工知能(AI)について考えていることを話そうと思います。

特に最近は将棋界の注目度が急上昇し(藤井二冠恐るべし)、AIへの関心も高まっている気がします。僕自身も将棋ファンというのと、小さい頃から囲碁をやっていることもあって、AIが囲碁/将棋界に与えた影響には衝撃を受けました。

ということで、有機化学者+碁打ちというちょっと変わった視点からAIについて話そうと思います。前編ではAIが囲碁/将棋界に与えてきた影響について、後編では前編の内容をふまえて今後AIが有機化学界においてどのような存在になっていくかの考察について書いていきます。(あくまでも個人的な見解です)

 

ボードゲームにおける人類とAIの戦いが特に注目を浴びたのは、やはり90年代のチェス世界王者カスパロフとスーパーコンピュータ “Deep Blue” の決戦でしょう。1997年についにDeep Blueが勝利し、大いに話題になりました。

しかし将棋や囲碁ではコンピュータの実力はまだまだ低く、特に囲碁は向こう何十年、あるいは百年は人類に勝てないと言われてきました。というのも、チェスや将棋に比べて囲碁は盤面が広く(チェスが8×8、将棋が9×9に対し、囲碁は19×19)、候補となる手が圧倒的に多いからです。

しかし、Google社が囲碁AIの開発に乗り出してから状況は一変します。2015年頃に “Alpha Go” と呼ばれる囲碁AIが登場、世界の強豪を相手に完勝を収めます。そして2016年には世界トップ棋士の一人である韓国の李世ドル九段と対戦、5戦して4勝1敗と勝ち越して世界に衝撃を与えました(僕も当時中継を見ていましたが、あまりの強さに言葉を失いました)。この戦いは様々なメディアが報道し、AlphaGoという名前を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

ここからが本題ですが、そもそもAIはどのようにして次の手を決めているのでしょうか。当然全てのパターンをしらみつぶしに調べることができれば完全なる答えを得られますが、候補となる手の数は文字通り指数関数的に増えてしまい、とても現実的な時間で調べきることはできません。そこで従来のAIは、プロ棋士たちの棋譜(=対戦記録)から善悪判断を学習してきました。こういう手は負けやすいとか、ここはこうするべきだというのを膨大なデータから学習し、候補となる手を絞るイメージです。ある程度候補を絞れたらその高い計算能力を活かして先の展開を予想する、というわけです。

しかし計算速度では人類を遥かに凌駕するAIですが、それでもなかなか実力は伸びず、プロ棋士には到底太刀打ちできませんでした。やはり人間は経験や直感などから候補を絞る能力が非常に高く、その差がなかなか埋まりませんでした。もともと人間の棋譜から学習しているので人間が想像もしないような手を繰り出すことも当然できず、結局未知の場面に対応しきれずに不利になってしまいます。

AIの実力が飛躍的に向上した鍵は、この人間の棋譜から学習するという方針を捨てたことにあります。簡潔に言うと、AlphaGoではコンピュータ同士で何度も繰り返し対戦させて、自分で善悪判断を学ぶという手法に切り替えました。こうすることで従来よりも効率的に、より膨大なデータを手に入れました。最終的には人間の棋譜に一切頼らず、本当にゼロから自己学習のみで実力を上げる “AlphaGo Zero” というAIが誕生しました。

AlphaGo Zeroの繰り出す戦法は囲碁界に衝撃を与えました。過去の人間の対戦から学習せずに人間を超えてしまったのですから、いわば人間よりも囲碁の”真理”に近い存在と言えるでしょう。人間の感覚とはかけ離れた手段を採用したり、これまで常識とされてきた戦法が覆されたり、など囲碁界の情勢は一変します。

現在では囲碁AIの開発で得られた知見を他の様々な分野に応用しようとする動きが多く見られます。囲碁AIの飛躍的な実力の向上は従来の手法では困難であり、この分野における試金石であったことは確かです。実際に有機化学においても、AIを活用して合成経路を考案しようという試みもあるかと思います。それでは有機化学界でもいずれ人間が築き上げてきた知見に全く頼らないAIが登場し、信じられない合成経路が次々に登場する時代が来るのでしょうか。後編では有機化学を中心に、囲碁などのボードゲームとの違い、今後どのような発展が考えられるか、などを考察したいと思います。

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D3。ボードゲームやプログラミングなど、頭を使うことが好き。

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