ブログ

有機合成あるある言いたい〜♪

Today:20views / Total:3,526views Written by:

お久しぶりです、D2の小松田です。気がつけば3月になり後一ヶ月もすれば新しい年度が始まります。
卒業式や入学式など徐々に行うところも増えてきて、少しづつ新しい日常生活が動き出しているような気がします。

山口研でも3月に修士二年生の卒業、4月からまた新たな学部四年生が加わることになります。そして、いよいよ僕たちの代がD3になります。と言っても、ご存知の方が多いと思いますが我々の世代(厳密に言うと僕以外の三人)が山口研の初代なのでずっと最上級生なのですが、正真正銘最高学年かつこの研究室で送る最後の一年ということになります。まるで最後のブログかのようになっていますが、今回は違う話題です。

山口研究室に入ってきてから4年間、これまでに多くの下級生を指導する機会に恵まれました。直接指導したのは十人程度ですが、僕自身直接関係ない人のテーマや実験に首を突っ込むことが結構あるので(迷惑?そうでないと信じたい笑)、学生という立場にしてはかなり多くの人の実験操作や研究の仕方を見てきたと思います。その経験の中から、自分自身のことも含めて「ん?それ違くない?」とか「あ、このミス前もあったわ」と思うこと、すなわち「有機合成あるある(勘違い)」を紹介したいと思います。
※もちろん今はみんなこんなもの笑えるくらい成長しているはず!?

冷凍庫に入れておけば大丈夫!?

これはよくありますね。「あの壊れやすい化合物どうした?」と尋ねると「冷凍庫に入れたので大丈夫です!!」と自信満々に答える人。ちょっと待ってください。その化合物が冷凍庫(うちでは–40°C)や冷蔵庫で安定だと誰が決めたんでしょうか。そう思う気持ちもわからなくはないですが、不安定な化合物は低温ではその分解速度が遅くなる場合はありますが、化合物によっては冷凍庫であっても–78°Cであっても分解します。もちろん比較的低温での保存が効果的な場合も多いですが、単離や保存が難しい試薬や反応剤は直前に調製や精製することをお勧めします。

一番大切なのは、その化合物が何に対して不安定なのかをできる限り知ることだと思います。光、熱、酸素、水分などなど、そういったものを避ければいいのであればそれに応じた対策をすれば大丈夫です。せっかく合成した化合物を大切にしているつもりでも、傷つけている場合がないか化合物の気持ちになって考えましょう。使用する前に、NMRなどで純度を確認したり、既知反応で活性を確かめるのもお勧めです。

溶媒は”溶媒”

多くの有機合成反応で必須の”溶媒”。これは反応を効率的に進行させる上でとても重要な要素の一つですが、時に悩みの種になります。それは、溶媒自体が反応剤として反応してしまうことです。溶媒は”溶媒”という魔法の液体ではなく”試薬”です。つまり、反応系中においてもっとも多量に存在する試薬ということになります。普段何の気なしに使っているのは、溶媒が反応剤として作用しないあるいは目的の主反応に関与しないという前提が存在するのです。

「化合物が溶けないからメタノールを入れたら求核付加してメトキシ基が導入されてしまった」「高温条件下DMF中で反応させたら分解物のジメチルアミン由来の副生物が得られた」など溶媒が反応に関与してきてしまう例があります。自分自身で反応条件を検討したり、新たな反応をデザインするときはこの溶媒の存在を忘れないようにしましょう。上手く使えばとても頼もしいですが、こちらの無理な要求に全て答えてくれるほど優しくはありません。「なんでもいいから極性溶媒!」なんてことのないように。。。

そして実はこれ、ただの可愛いあるあるではなく、有機合成に慣れている人にとっても恐ろしい事故の原因になることもあります。それは、前の反応で用いた溶媒が反応してしまうことです。以下は有名な例ですが、CH2Cl2中でのメシル化に続くアジド化で起きた事故[1]。一工程目で溶媒として用いたCH2Cl2が残存したまま二工程目のNaN3と反応してしまい、爆発性のジアジドメタンを生成、大爆発し周囲を木っ端微塵に吹き飛ばしたというものです。こうして俯瞰してみると分かりますが、目の前で実験を行うときも気をつけなくてはいけません。これはあるあるではなくあってはいけないことですね。くれぐれも気をつけましょう。

実際に起きた事故の例

最近では、溶媒としてよく使うDMFの危険性についても研究が進んできています[2]。DMFは特定の条件では熱暴走を引き起こして、爆発の危険性があるようです。実験室系では使われるNaH/DMF系も、大スケールでは危険であるという話もあります。溶媒も試薬であるということをしっかり意識したいですね。

また、溶媒には当然融点が存在します。そのため、反応条件の温度で溶媒が凍ってしまうことがないか確認することも大切でしょう。(昔、某ラボのとある先輩がSwern酸化をする際に、CH2Cl2溶液にせずにDMSOを–78°Cの系中に入れようとしたらシリンジの中で凍ってしまって先生が呆れるなんて事件があったようななかったような笑)

反応が進行しません!

これは毎年必ずといっていいほど経験します。TLCを印籠のように見せ付けられますが、そんなときは一旦落ち着きます。本当に反応が進行していない場合もありますが、この場合は実は反応が進行しているパターン反応が進行する=スポットが変化するという思い込みですね。そんなとき、TLCの展開溶媒を変えると、実はスポットが分離される場合があります。また、呈色試薬によっては同じRf値のスポットが異なる色で見えることもあります。波長を変えてみると、変化がわかる場合もあります。どうしてもTLCで判断できない場合でも、MSやNMRを使って反応を停止させる前にその進行状況を確認することが大切です。

いいえ、反応は進行します。

これはその逆で、特定の条件では反応が進行しないという思い込みです。冷凍庫の件に似てますね。室温だったら反応進行しないから置いておこうという人、本当に室温では反応は進行しませんか?実は室温でもゆっくり反応が進行している、エバポレーターの湯浴で加熱した際に進行する、反応停止のために加えた試薬で副反応が進行するなんてこともあり得ます。こういったことを頭に入れるだけでなく、反応停止前後のTLCの変化なども追ったほうがいいですね。

単離してみたら。。。

「やった反応が進行した!」と思って単離してみたら、「あれ?何か違うぞ?」という経験をしたことがある人も多いと思います。この場合は、主に副生物を単離した、中間体を単離した、別の何かを単離した、ことがよくあるパターンです。

副生成物の代表格としてあげられるのは、トリフェニルホスフィンオキシド、スクシンイミドなどでしょうか。よく反応に使う試薬の副生成物として有名ですが、なかなか分離できなかったりUV吸収があったりTLCでいい感じに見えたり、中々厄介者です。単離できた!と思ってもNMRなどで確認するまでは油断せずに全ての化合物を回収しましょう。

別の何かは、可塑剤(フタル酸ジエステル系)です。クランプのゴム部分やセプタムなどに含まれるため、洗い込みの際に混入することがあります。頑張って単離したら可塑剤でしたなんてことはうちのラボでもたまにあります。あと以前聞いたのは、結晶が出て意気揚々としてたらNaClだったという話。笑こういうのは、避けるのは難しくとも知っておくとひょっとしたら?と疑うことができるかもしれません。

正しい構造ですか??

これは慣れた人でも注意したいことですが、化合物の位置異性体などの区別です。窒素上or酸素上で反応が進行しているのか、二重結合の位置は適切か、など1H NMRだけだと判断できない場合もあります。決めつけることなく2D NMRなど他の情報も併せて考えましょう。

試薬の純度は大丈夫ですか?

自分の実験操作が悪いのか、再現が取れないということは時々あると思います。また、文献反応が再現できないという場合もあると思います。色々な要因がありますが、その一つが試薬の純度です。

文献反応では、(記載してある場合)同じメーカーの試薬のみ生成物が収率よく得られることがあります。また、試薬会社もクオリティにこだわっているとは思いますが、Lotによって純度が違う、製造過程で不純物が混入しているということも時々聞きます。また、安定剤として添加されている試薬の影響もあります。不安な場合はNMRで確認したり、自身で再結晶や蒸留による精製を行うことで改善することがあります。試してみてください。

あとは、全ての試薬で純度100%ということはありません。各試薬会社のHPや試薬瓶に純度が記載されていることがあるので使う前はSDSと併せて確認しましょう。NaHやmCPBA、Togni試薬などは、初めから100wt%ではないので気をつけましょう。1当量入れたつもりが少なかった、なんてこともあります。

有機金属試薬のように使っているうちに濃度が低下するものもあります。その場合は滴定してその都度濃度を算出することで解決できます。

まとめ

以上、僕の身の回りで実際にあったり、聞いた話をまとめてみました。初心者あるあるから慣れた人もやってしまうミスまで挙げましたが、まだまだたくさんありそうですね。一連の件に共通しますが、自分がやる実験で何が起こるのかをよくよく考えることはとても大切だと改めて思います。これから新たに研究生活を送る人や新入生を指導する人の参考になればと思います。もちろん僕自身もですが、慣れてきた人の方がより一層気を引き締めて研究を進めないといけませんね。新しい年度も気持ちを新たに頑張ろうと思います。

参考文献
[1]Conrow, R. E.; Dean, W. D. Diazidomethane Explosion. Org. Proc. Res. Dev. 2008, 12, 1285–1286.
[2](a) Yang, Q.; Sheng, M.; Henkelis, J. J.; Tu, S.; Wiensch, E.; Zhang, H.; Zhang, Y.; Tucker, C.; Ejeh, D. E. Explosion Hazards of Sodium Hydride in Dimethyl Sulfoxide, N,N-Dimethylformamide, and N,N-Dimethylacetamide. Org. Proc. Res. Dev. 2019, 23, 2210–2217.(b) Yang, Q.; Sheng, M.; Huang, Y. Potential Safety Hazards Associated with Using N,N-Dimethylformamide in Chemical Reactions. Org. Process Res. Dev. 2020, 24, 1586–1601.

The following two tabs change content below.

小松田雅晃

D3。驚異のリサーチ力を誇るラボGメン。

最新記事 by 小松田雅晃 (全て見る)

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ページ上部へ戻る