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きれいで化学な贈り物。鉱物なんていかがですか。

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こんにちは。B4の久田です。今年もよろしくお願いいたします。

ついこの間まで街はクリスマスのイルミネーションでキラキラしていたのに、気づけば門松が飾られ除夜の鐘がなればお正月、今は少し気の早いバレンタインデー商戦が始まろうとしています。

クリスマスでもお正月でもバレンタインデーでも、忙しく行き交うのは街をゆく人々だけでなく、贈り物も人々の間を行き交っているのです。クリスマスにはプレゼント、お正月にはお年玉、バレンタインデーにはチョコレート。いろんなものが人の手から人の手へ。そんな贈り物たちには贈り主の思いが詰め込まれているというものです。その中でもとびっきりの贈り物と言えばなんでしょう?

ずっとほしかったおもちゃ、おばあちゃんからもらったお年玉袋、見た目はアレだけど食べたらおいしい手作りチョコ、それとも七色に輝くダイヤの指輪……?

ともあれずっと昔から、受け取る人にとって価値のあるものが贈り物として選ばれてきました。そして、数ある贈り物の中でも宝石は多くの人から愛され、価値のある贈り物であり続けてきました。

さて、化学を一度でも学んだ者なら、たとえ詳しくなくても宝石や鉱物の化学的な組成というものが気になってしまうかもしれません。鉱物の世界は、有機化学とはやや離れた場所にありますが、私は鑑賞するにも化学的にもこれらが大好きです。そこで今回は、昨年末に開催された2017年 第26回東京ミネラルショーの話も交えながら、私の趣味の一つである鉱物の話をします。


第26回東京ミネラルショーに行ってきました!

まず「ミネラルショーって何?」って方に簡単に説明しますと、鉱物(ミネラル)を展示、販売している即売会のようなものです。会場に多数の出品者がひしめきあう中で、良いものがないか目を光らせながら見て回り、時には出品者と交渉もしながら購入します。もちろん見ているだけでも楽しいです。お手頃価格の商品も数多くありますが、美しくカットされた宝石や見事なレア鉱石は100万以上の値がついているものもあり、とても手が届かないものもたくさんあります。鉱石、宝石単体以外にも、それらを用いたアクセサリーや化石、ヒーリングアイテム?なども販売されており、思いもよらない(本当の意味での)掘り出し物に出会うこともあります。

このミネラルショーは一年を通して月数回、日本各地で開催されています。そしてこれらのミネラルショーの中で最も規模が大きいのが、毎年12月上旬に池袋で開催される東京ミネラルショーです。場所は池袋サンシャイン文化会館ビルです。入場料は一般が800円ですが、学生は500円。中学生以下は無料。学生の方は学生証を見せればワンコインです。

中に入るとこんな感じ。

かなり人がいて、客層が老若男女幅広いのが特徴です(個人的な感想ですが会場によっては女性の方が圧倒的に多いこともあります)。人気店舗や、イベントブースなどは身動きしづらさを感じるほど混んでいます。実は昨年の第25回東京ミネラルショーにも友人と訪れたのですが、今年は一人で行きました。

ここで写真をいくつか載せて「楽しかった」といって締めくくることもできるのですが、ここでは私の趣味を存分に語らさせてください。鉱石に関してはやはり化学的な観点から紹介したいので、その鉱石を構成する上で重要な元素の原子番号順で載せていこうかと思います(とは言えどれが重要な元素かというのは私が勝手に決めました)。

なお、ここに掲載する写真はすべて、出品者に直接許可を得て撮影したものになります(撮影禁止の出品も結構ありました)。


アクアマリン, aquamarine Be3Al2Si6O18

アクアマリンは、緑柱石(ベリル)という鉱石のうち、水色の美しいものを指します。緑柱石自体は、ベリリウムとアルミニウムのサイクロケイ酸塩に当たり、ベリリウムはこのベリルから名づけられました。着色成分がなければ一般的にベリルは無色ですが、Fe2+イオンが混入すると淡い水色となりアクアマリンと呼ばれるようになります。またクロム等によって緑色に着色し、かつ透明度が高いものはエメラルドと呼ばれます。このほかにも着色によって様々な名前が付きますが、アクアマリンはエメラルドより廉価なものの、美しいものはカットされて宝石として尊ばれています。写真のものも透明度が高く、六方晶に由来する見事な六角柱状の結晶を為しており、お値段はなかなかしますがきれいだと思います。

ベリリウムが主要成分となる鉱石の代表的なグループとしては、金緑石があります。これはBeAl2O4で表され、キャッツアイ(猫目石)アレキサンドライトといった鉱物もこの金緑石の変種となります。ベリリウムと言えば「良い性質をたくさん持っているが毒性の高い金属」というイメージが強いですが、美しい宝石を構成する主成分と考えると、少し見方が変わるかもしれません。

 

蛍石, fluorite CaF2

蛍石(ほたるいし)はカルシウムのフッ化物という分かりやすい組成をした鉱物です。分類としてはハロゲン化鉱物となり、ここには岩塩(ハライト) NaClやシルビン KCl、南極石(アンタークチサイト) CaCl2・6H2Oなどが分類されます。その多くが水に溶けやすいのですが、蛍石は水への溶解度が低いために世界各地で産出します。微量に存在するイオンや結晶格子の欠陥によって様々な色がつくので、最もカラフルな鉱石と称されることもあります。蛍石の結晶構造はそのまま蛍石型構造と呼ばれるもので、結晶系としては立方晶系に属します。写真の蛍石も立方晶系の角がよく現れています。

蛍石の名前は蛍のように光ることから名づけられましたが、多くの方は蛍石に紫外線を当てると蛍光することに由来すると思われているかもしれません。確かに多くの市販の蛍石は蛍光を示しますが、これは不純物によるものでありすべての蛍石が蛍光を示す訳ではありません。実は蛍石を加熱すると、結晶格子の欠陥などが緩和され余剰のエネルギー分で光を放ちます(破片がとび散ることがあるので安全には気を付けましょう)。この性質から蛍石と名付けられました。

蛍石は赤外線から紫外線まで幅広い波長の光を透過するので、人工的に単結晶が合成されレンズとしての利用がなされています。また、蛍石はフッ素の発見にも一役買っており、1886年のアンリ・モアッサンによるフッ素の単離においては、蛍石の容器が使われたと言います。また、単体フッ素はフッ化水素の電気分解によって得られましたが、このフッ化水素も蛍石を濃硫酸中で加熱して用意されたので、蛍石なしにフッ素の発見はありませんでした。

 

バナジン鉛鉱, vanadinite Pb5(VO4)3Cl

バナジン鉛鉱(ーえんこう)はバナジン酸イオンVO43-を主要な成分として含む鉱物です。バナジン酸は5価のバナジウムを含むオキソ酸で、重金属との塩は黄色から濃赤色を示すことが多いです。鉱石として算出するバナジウムはこのバナジン酸塩として存在することが多く、バナジン鉛鉱は鉛の鉱物が酸化される過程で生成されることが多いようです。バナジン鉛鉱は橙色から褐色の鉱石で、品位の高い鉱石は鮮やかな赤から深いワイン色をしており、コレクターからの人気も高い鉱物です。写真のものは小ぶりですが濃い赤色をしたバナジン鉛鉱が群生しており、六方晶の構造を強く反映した平たい六角柱状の結晶が見られます。

これは私のコレクションの小さなバナジン鉛鉱です。中学生の時に友人から頂いたものです。贈り物はもらうとうれしいものですね。ありがとうございました。

バナジウムを含む鉱石は、バナジン酸塩鉱物としてまとめられ比較的種類が豊富です。しかしこのほかのバナジウムの形態として、バナジルイオンVO2-が存在します。このバナジルイオンに含まれるバナジウムは4価で、極めて鮮やかな青色をしています。これを含む鉱石にはカバンシ石 Ca(VO)Si4O10・4H2O (ペンタゴン石も同じ組成)があります。有機化学でもアリルアルコールのジアステレオ選択的エポキシ化にバナジルアセチルアセトナート(VO(acac)2)が用いることができます。このほかにバナジウムは鉱石中でV3+として存在でき、緑色の発色を示すことが多いです。先述のエメラルドにおける発色は一般的にはクロムによりますが、バナジウム由来の発色のものもあるようです。なお、V3+を亜鉛アマルガムなどで還元するとV2+が生成しますが、V2+を含む鉱石があるかは私は知りません。

 

菱マンガン鉱, rhodochrosite MnCO3

菱マンガン鉱 (りょうーこう)は、MnCO3であらわされるマンガンの炭酸塩です。ピンク色はMn2+に由来し、ベージュのような薄い色から濃い赤色まで幅があります。特に濃色で透明感の高い牙状の結晶群は人気が高く、カットされて宝石のように珍重されることもあります。英名のロードクロサイトも、そのバラのような色に由来しています。写真の菱マンガン鉱は三方晶の形がはっきりと現れており、かなり大きい結晶となっています。さすがに高いですね。

こちらも同じ菱マンガン鉱ですが、鍾乳石のようになっているものです。これは中南米で多く産出するためインカローズと呼ばれています。メノウ様の縞模様がたくさんあるほど美しいとされています。

なお、菱マンガン鉱は美しくないものであれば比較的多く産出するため、軟マンガン鉱 MnO2とともにマンガン源として重要な鉱石でもあります。

 

黄鉄鉱, pyrite FeS2

黄鉄鉱(おうてっこう)は鈍い金色をした、二価の鉄の二硫化物です。比較的安価で、皆さまの中でもどこかで見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。立方体の結晶は極めて特徴的で、人工物のような印象も受けます。また、鈍い金色から「愚者の金」という二つ名もあるようです。たまに正二十面体の黄鉄鉱が売られていることもあり、これらは同じくらいの大きさの立方体結晶のものより少し値が張ります。硫化鉱物全般に言えることですが、水分と反応して徐々に酸化されていき硫酸を生成するため湿度を嫌います。

実は私も今回のミネラルショーで小さい黄鉄鉱を購入しました。小ぶりながら端正でかわいいです。500円でした。鉄よりも硬度は高いものの脆く崩れやすいので、保管には湿気とともに衝撃にも注意する必要があります。また、組成が同じでありながら結晶構造が異なる鉱物に白鉄鉱があります。

 

藍銅鉱, azurite Cu3(CO3)2(OH)2

藍銅鉱(らんどうこう)はその名の通り藍色をした銅の塩基性炭酸塩です。銅鉱石のほとんどはCu2+に起因する緑色から青色の色彩を持っていますが、藍銅鉱はその中でも濃くて鮮やかな青色をしています。銅の炭酸塩と言いますと、CuCO3という単純な化学式が思いつきますが、実際には純粋な銅の炭酸塩という状態は極めて珍しく、幾分のOHを組成に持った塩基性炭酸銅という状態で存在します。そしてCu2+に対してCO32-とOHがどれくらいの比率で存在するかによっても鉱物としての色合いが変わってきます。孔雀石(マラカイト)は藍銅鉱と同じく塩基性炭酸銅の鉱物ですが、Cu2CO3(OH)2という組成を持っており、こちらは緑色~青緑色をしています。もちろん組成が似ているので孔雀石と藍銅鉱はよく共生するのですが藍銅鉱の方が高価です。特に青色の顔料が少なく高価であった時代にはこの藍銅鉱は大変高値で取引されたのだそうです。写真の藍銅鉱はほぼ藍銅鉱のみで構成されています。なお、十円玉や銅製品の表面にたまに現れる緑青も塩基性炭酸銅です。化学的にはこの緑青は、(色からもなんとなく想像できますが)藍銅鉱ではなく孔雀石と同様の組成を持っています。

 

モリブデン鉛鉱, wulfenite PbMoO4

モリブデン鉛鉱(ーえんこう)は鉛のモリブデン酸塩で、水鉛鉛鉱とも呼ばれます(モリブデンは鉱物名では水鉛と呼ばれることがあります)。モリブデン酸アニオン(MoO42-)はモリブデンのオキソアニオンで、中心のモリブデンの酸化数は6価になります。ちょうどクロム酸(CrO42-)タングステン酸(WO42-)のアナログになりますが、クロム酸と比較して酸化力、毒性に乏しく、化学的特性はタングステン酸に似ています。有機化学系でも、TLCの呈色試薬にモリブデン酸があるのでなじみがあるかもしれません。モリブデン鉛鉱は黄橙~赤褐色の板状結晶になりやすい鉱物で、先のバナジン鉛鉱のような小さな板状結晶が母岩(鉱物の結晶がついている岩石)上に群生しているのをよく見ます。ですが写真のモリブデン鉛鉱は結晶が板状ではなく、正方晶の特徴が現れた直方体になっているのが分かります。本来モリブデン酸イオンの単量体は無色であるため、モリブデン鉛鉱の鮮やかな橙色はアナログであるクロム酸イオンが一部置き換わったためだと言われています(タングステン酸イオンに置き換わっても無色のまま)。さらにクロム酸イオンが増えれば、クロム酸鉛PbCrO4の組成を持つ紅鉛鉱となります。逆にタングステン酸鉛の組成を持つ鉱物は鉛重石PbWO4となりますがこちらはかなりレアで私は見たことがありません。

 

自然銀, native silver Ag

自然銀(しぜんぎん)は天然に産出する単体銀です。酸化などに強かったり、還元されやすい金属は単体で産出することがあります。このように単体として産出する鉱物を元素鉱物といい、意外と多くの元素が単体として産出することがあることが知られています。銀もそのような金属で時折単体で析出することがあり、これを自然銀と言います。自然銀は柳の枝のような形状のことが多く、俗にひげ銀なんて呼ぶこともあります。写真のものもひげ銀です。銀はHSAB則から推測されるように硫黄と相性が良く、硫黄化合物の存在下で硫化銀を容易に生成します。これが自然界で生成すれば針銀鉱輝銀鉱(どちらもAg2S)という鉱石になりますが、これらがなんらかの還元をうけると自然銀が発生するとされています。なおこのような元素鉱物のうち自然銀のような金属では、他の金属を含む合金であることが多く、例えば金や銅、水銀などと合金を作っています。このような場合は、一般に最もモル比が多いものの名前で呼ばれます。

 

輝安鉱, stibnite Sb2S3

輝安鉱(きあんこう)はアンチモンの硫化物です。アンチモンは有機化学ではそこまで多用されている元素とは言えませんが、希少な元素であり、この輝安鉱はアンチモンの供給に極めて重要な鉱物です。アンチモンは3価と5価の酸化状態を鉱物中ではとり、アンチモンの硫化物にも三硫化アンチモンと五硫化アンチモンが知られていますが、輝安鉱は前者の組成を持っています(五硫化アンチモンはマッチの側薬に用いられています)。暗い金属光沢が特徴で、結晶の形は鋭い剣のようになり、見ごたえのある鉱物です。特に大型で美しい結晶は剣の山のような見た目になり大変迫力があります。写真の輝安鉱も大型ですが、恐らくオールドコレクションなのでしょう、金属光沢がやや鈍っています。先述のように硫化鉱物は水分や酸化に比較的弱いため、輝安鉱も湿気などに注意して保管しなくてはなりません。アンチモンを含む鉱石はこのほかにもベルチェ鉱FeSb2S4安四面銅鉱(Cu,Fe,Zn)12Sb4S13車骨鉱PbCuSbS3などがあります。(鉱物の組成ではよく (A,B,C)X みたいな書き方で、A, B, Cと複数の金属を並べて書いてあることがあります。これはそれぞれが互いに容易に置換しうることを示しており、多くの場合カッコ内の元素が様々な比率で混在しています。ただし、一般的にはその鉱石中で占める割合が多い元素ほど先頭に表記されます。)

 

自然金, native gold Au

自然金(しぜんきん)は金の元素鉱物です。金は極めて酸化に強く、反応性の低い金属であるため、単体として析出することの多い金属です。ただし、金は地球上5ppb (地殻1トン中に5mg存在)と大変少ない元素であるため、まとまって目に見える量で得られることは稀で、そのような産出地も限られています。また、金は柔らかい金属であるため風化や浸食の影響を受けやすく、このような細かい金は河川などで採れる砂金となります。写真のようなまとまった自然金は、熱水鉱床(100℃以上の熱水が岩石中を通る間に様々な元素が沈殿してできた鉱床)の石英鉱脈中に生じることが知られており、この自然金も石英とともに生じているのが分かります。ちなみに日本にも金鉱山は複数あり特に佐渡金山などは有名ですが、ほとんど閉山してしまっており現在稼働しているのは鹿児島県の菱刈鉱山と串木野鉱山のみとなっています。

このように金は単体で生じることが多くかつ大変目立つので、人類が最初に手に入れた単体金属とも言われており、延性・展性に優れ低融点であることから、古代から宝飾品として用いられてきました。しかし必ずしも金が自然金の形で産するかというとそうでもありません。例えば金は特別テルル等の柔らかいイオンとなる典型元素と相性がよく、金とテルルを含んだカラベラス鉱AuTe2シルバニア鉱AgAuTe4などが知られています。

 

緑鉛鉱, pyromorphite Pb5(PO4)3Cl

緑鉛鉱(りょくえんこう)は塩化物イオンを含む鉛のリン酸塩鉱物です。もしこの組成式に見覚えのある方がいましたらすごいと思います。というのも、上で紹介したバナジン鉛鉱Pb5(VO4)3Clと、オキソアニオンのみが入れ替わった組成をしているのです。実はリン酸イオン(PO43-)バナジン酸イオン(VO43-)は同形で電荷も等しいために、鉱石中における挙動が大変似ています。そのため、緑鉛鉱とバナジン鉛鉱は互いに似た鉱物として分類されます。そしてヒ酸イオン(AsO43-)もリン酸イオン、バナジン酸イオンと交換しやすいイオンです。ですからPb(AsO4)3Clという鉱物ももちろん存在し、これはミメット鉱と呼ばれます。これらのA5(XO4)3Zのような組成をもった鉱物は燐灰石(アパタイト)Ca5(PO4)3Fにちなんで燐灰石スーパーグループという分類に入れられます。そんな緑鉛鉱ですが、赤っぽい色彩のバナジン鉛鉱とは打って変わって、写真の通りマスカットのような黄緑色をしていることが多いのが特徴です。緑は緑でもこのような色彩の鉱物は少ないので、この色を見たらすぐに緑鉛鉱だろうと思えます。ただしリン酸イオンとバナジン酸イオン、ヒ酸イオンは鉱石中で置換することが多く、混合して存在することが多いため、黄色や褐色の緑鉛鉱については化学的な手法で分析しないと分からないようです。

 

人工ビスマス, bismuth Bi

ビスマスは原子番号83、元素記号Biの金属です。ミネラルショーでは多くの鉱物が展示されていますが、中には天然ではないものも販売されています。たとえばケイ素(シリコン) Siはよく出品されており、暗い金属光沢をもった塊や、単結晶のインゴット(ケイ素のインゴットとは円柱状の単結晶を切ったもの)、ウエハー(インゴットを薄くスライスしたもの)が販売されています。他にも電解製錬したコバルト Coやモンド法で作られたと思われるニッケル Niなど、単体金属が販売されていることもあります。ビスマスは自然蒼鉛として単体で産出することもありますが、写真のものはそのような鉱石ではなく人工のビスマス結晶です。ビスマスは融点が低く大変脆い、半金属的な性質を多分にもった元素で、融解したあと慎重に冷却すると大変不思議な形状の結晶が析出します。写真のビスマスもそのようにつくられたものですが、この立方体ともつかぬ結晶の形は骸晶(がいしょう)と呼ばれます。これは結晶ができる際に辺や角のみが急速に成長し、面の成長が遅れることでできる形状で、結晶化の速度が冷却に対して速いとできやすくなります。身近な例では、塩化ナトリウムの結晶を作ると逆ピラミッド型の空洞が空いた骸晶が得られることが多いのですが、これは塩化ナトリウムの結晶の成長がかなり遅いためです。ビスマスの骸晶は自然にできたとは思えないような意匠なので、この形だけでも十分鑑賞にたえます。

ですが人工ビスマスの特徴はその形だけではありません。写真を見ればわかるように不思議な虹色の色彩が全体を覆っています。これはビスマス自身が虹色であるからではなく(ビスマス自体は銀色)、金属表面の酸化被膜によって光の干渉が起きているためです。酸化被膜の厚さによって干渉色は変化し、被膜の厚さはビスマスが融解していた時間や温度、冷却時間によって変わるため、人工ビスマスは虹色の光沢を放つのです。この不思議な造形と虹色の輝きからビスマスはコレクターのみならず多くの人に人気です。

ちなみにビスマス結晶を作るには多少のコツが必要だそうです。ネットなどで金属ビスマスチップを比較的安く購入できますが、きれいな形と色彩の結晶を作るには熟練が必要です。写真のきれいな人工ビスマスは石華工匠さんが作成したものです。Twitterなどで活動を確認できますので、興味のある方はぜひご覧ください。


私が東京ミネラルショーで今回撮影した鉱物は以上になります。ですが、そもそもミネラルショーは写真を撮る場ではありません。あくまで即売会ですから、購入というのが本来の目的となります。そしてもちろん私の目的も、ほしい鉱物を手に入れるというものでした。先ほど掲載した黄鉄鉱も購入したものの一つです。そこで今回購入した鉱物(戦利品)と(そんなに多くはないですが)私のコレクションからも紹介いたします。

 

 

石英, quartz SiO2

石英(せきえい)はケイ素の酸化鉱物です。特に透明度の高いものは水晶と呼ばれ、一般的にはこちらの名前の方がぴんとくる方が多いかもしれません。酸素とケイ素はそれぞれ地殻中で最も多い元素と二番目に多い元素ですから、両者からなる鉱物は極めて多く、ケイ酸塩鉱物は数えきれないほどの種類があります。そのような中でも純粋にケイ素と酸素のみからなるのが石英で、ケイ素と酸素からなる正四面体構造が三次元的に無限に連なった結晶です。石英は地球上に大量に存在しそこら辺の砂にも含まれています。ただし鑑賞に供されるのは大型の結晶がほとんどで、それらの多くが六角柱で先がとがった、いかにも結晶といったような形状のものです。写真の石英も六角柱の結晶があちらこちらへ突き出しています。成分からして石英は無色透明ですが鉄イオンなどが存在すると色が付きます。たとえば紫色の発色を持つものはアメジストと呼ばれますし、黄色いものはシトリンと呼ばれます。また、層状に積み重なって断面に縞模様が現れるような石英は瑪瑙と呼ばれます。世界中に普遍的に存在しながら、同じ鉱物でも不純物や形状によって名前も価値も様々に変化するのも面白いところです。

 

自然硫黄, sulfur S

自然硫黄(しぜんいおう)は単体硫黄からなる元素鉱物です。自然硫黄は火山でよく発生します。具体的には、火山性ガスである硫化水素H2Sと二酸化硫黄SO2の酸化還元反応の結果、単体硫黄が生成するというもので、ガスの噴出孔などで自然に生成しているのが見られます。温泉大国である日本では、火山の噴出孔が観光地となっているような場所も多く、自然硫黄ができているのを見たりすることもできます。自然硫黄は硫黄の同素体中で常温下で最も安定である斜方硫黄(α硫黄)として析出しますが、その多くは不透明かつ不定形な黄色い塊で単結晶が認められることは多くありません。このような自然硫黄は多くの火山で採れ、工業的な用途も多いことからかつては黄色いダイヤと呼ばれて盛んに採掘されました。しかし石油の脱硫によって大量の硫黄が供給されるようになってから、硫黄の採掘は採算が取れなくなりほとんどの硫黄鉱山は閉山してしまいました。しかし、美しい自然硫黄の結晶ができることがあり、これは観賞用として出回ります。写真の自然硫黄は私のコレクションで、母岩部分が少なく、ほとんどが端正で透明度の高い結晶からなります。大きさも手のひらより大きく大変すばらしいものだと自分で思っています。

 

雄黄, orpiment As2S3

雄黄(ゆうおう)はヒ素の硫化物です。これは今回の東京ミネラルショーの戦利品の一つです。鮮烈で輝きのある黄色は「雄々しい黄」の名に恥じません。実際に中世ヨーロッパでは、明るい黄色や金色の表現に雄黄が顔料として使われていました。しかし雄黄は先述の通りヒ素化合物であり毒性が懸念されます。実際この雄黄を少量口にしてしまっても、水溶性がなく体内に吸収されないため中毒にはならないはずですが、長い年月により空気中の酸素によって三酸化二ヒ素(As2O3)が生成している可能性もあります。三酸化二ヒ素は猛毒ですので、ヒ素を含む鉱石を扱うときは直接肌に触れたり、粉じんを吸い込まないようにしたりするなど取扱いには注意すべきです。ですがヒ素を含む鉱物は多く、単純なヒ素の硫化物でも他に鶏冠石As4S4がある他、硫化鉱物の硫黄と置換されていたり柔らかい塩基として重金属とヒ化物を形成したりしている例が多いです。ヒ酸塩鉱物も種類が多く、地味な見た目のものも多いですが、コバルト華 Co3(AsO4)2は赤紫色の綺麗な鉱物でコレクターに人気であったり、強い蛍光を放つものが多いアダム石 Zn2(AsO4)(OH)などもあります。

 

重晶石, barite BaSO4

重晶石(じゅうしょうせき)はバリウムの硫酸塩です。ベリリウムBe, マグネシウムMgを除くアルカリ土類金属の硫酸塩はすべて水に難溶で、カルシウム塩は石膏 CaSO4・2H2O、ストロンチウム塩は天青石 SrSO4として知られます(ラジウムを主体とする鉱物は知られていません)。バリウム塩の中でも硫酸バリウムは化学的に安定であるため、重晶石はバリウムの主要な鉱石として採掘されます。重晶石は板状の結晶として析出することが多く、私のコレクションでも板状の小さな結晶が見えます。この板状結晶が球状に集まると「砂漠のバラ」と呼ばれる鉱物になりますが、似た形状に成長した石膏も砂漠のバラと呼ばれているので、砂漠のバラという名前は必ずしも一つの鉱物に対応しているわけではありません。バリウムは本来毒性の高い元素ですが、硫酸バリウムは溶解度が低く酸とも反応しないために飲み込んでも問題ないとされています。これはX線造影剤として硫酸バリウムが飲まれていることからも分かります。逆に言うと、このほかの溶解しやすい形のバリウム鉱物は多かれ少なかれ毒性があります。たとえば炭酸バリウムは水に難溶ではありますが、酸と反応するとBa2+を放出するので有毒です。これに対応するのが毒重石 BaCO3で、確かに名前に毒とついていますね。

 

方鉛鉱, galena PbS

方鉛鉱(ほうえんこう)は鉛の硫化鉱物です。暗い銀色の、金属光沢の強い鉱物で、きれいな直方体をしていることが多いのが特徴です。方鉛鉱の「方」もこの形に由来します。直方体をしているのは、その方向に結晶が割れやすいためです。このように特定の方向に結晶が割れやすい性質を劈開(へきかい)と言います。劈開はその鉱物の結晶構造によって、特定の結晶面の結合が弱くなることによって現れ、完全な劈開を示すものから、劈開が明瞭、不明瞭なもの、そして劈開がないものに分類されます。たとえばダイアモンドは完全な劈開を持ちます。このためダイアモンドは劈開に沿って力を加えれば、カッターナイフでも割ることができます。一方先ほど紹介した石英では劈開がないため、ダイヤモンドのようなカットは難しいですが彫刻のように複雑な形にすることができます。そして方鉛鉱は完全な劈開を持っていて、この劈開が垂直な3方向であることから、どんなに割っても劈開に沿う限りはきれいな直方体となります。

方鉛鉱は鉛の最も主要な鉱石です。鉛は毒性があり安い金属というイメージがありますが、バッテリーの電極などの用途があります。そして実は地殻中にも鉛はそんなに多くないので、精錬が簡単な形でまとまって析出する方鉛鉱は鉛源として重要です。また方鉛鉱は他の硫化鉱物と同じように、水分や空気と徐々に反応し金属的な光沢を失っていきます。写真の私のコレクションも表面の光沢が鈍っています。このような水分と酸素による酸化により方鉛鉱は硫酸鉛鉱PbSO4に変化します。

 

エカナイト, ekanite Ca2ThSi8O20

エカナイトカルシウムとトリウムのフィロケイ酸塩です。トリウムは化学を勉強していてもあまり聞きなれない元素かと思われます。有機化学ではルチッカ大員環合成で使用例があるくらいでしょうか。トリウムはアクチノイドに属する原子番号90、元素記号Thの金属です。放射能を持たない安定な元素は原子番号82の鉛までなので、トリウムは放射性元素ということになります。ですがトリウムの半減期は140億年と極めて長く放射能がかなり弱いので常に肌に触れるようにしない限りは何の問題もないとされています。トリウムは地殻中に鉛と同程度存在し、特にモナズ石CePO4にはかなりの量が存在しています。しかしトリウムを主体とする鉱物は多くなく、エカナイトはトリウムを主体とするかなり珍しい鉱物です。写真のように暗い緑色とガラス質の光沢が特徴的で、どちらかというと地味な鉱物なので珍しい割には値段はそんなに高くありません。写真のエカナイトは今回の戦利品です。カットされていますがカットした時に出る粉じんは弱いながらも放射能を持っていてさすがに吸いこんだら内部被ばくとなりますし、そもそもトリウムは放射能を抜きにしても毒性があります。アクセサリーとして身につけるわけでもないこの鉱物をカットするのは結構勇気がいた気がします。

このほかにトリウムを主成分とする鉱物には方トリウム石ThO2トール石ThSiO4があります。トリウムはウランのα崩壊で生成するため、ウラン鉱石に随伴して産出することが多く、トリウムの鉱物はたいていウランを含んでいます。逆に、ウラン鉱物も少量のトリウムを含んでいるため、文献によっては(Th, U)または(U, Th)という表記がなされることも多いです。

 

燐灰ウラン石, autunite Ca(UO2)2(PO4)2・10-12H2O

燐灰ウラン石(りんかいーせき)はカルシウムとウラニルイオンのリン酸塩鉱物です。説明するまでもなくウランは放射性元素です。原子番号は92番で、天然に十分な量存在する元素では最も原子番号の大きい元素です(ウランの中性子捕獲によって生じるプルトニウムがわずかに天然に存在しています)。ウランは酸化されやすい金属で、閃ウラン鉱UO2として産する他、ウラニルイオン(UO22+)として自然界に存在していることが多いです。ウラニルイオンは明るい黄色のイオンで、紫外光によって極めて強い黄緑色の蛍光を示します(蛍光はあくまでウラニルイオンの電子的な性質であって放射能に由来するものではありません)。このためウラニルイオンを含んだ鉱物の多くはその特徴的な蛍光によりすぐにそれと分かります。太陽光には紫外光が含まれているので、ウラン鉱物は他の鉱物より鮮やかな色を持っているように見え、見栄えのする鉱物がいくつかあります。燐灰ウラン石は黄色から緑の明るい色の鉱物で、これもウラニルイオンによります。多少黒ずんでいる部分は、閃ウラン鉱を内包しているためと言われます。紫外光を当てるとこの通り光ります。

この蛍光は強烈なもので、小さな物置とかなら照らせるくらいの明るさです。このようなウラン鉱物の独特な美しさがコレクターを魅了してやみません。ウランガラスというのもあって、これはウランをほんのわずかにガラスに混ぜることで、ウラニルイオン独特の色と蛍光をガラスに与えたものです。そしてウランガラス製の食器などもアンティークとして人気があります。このようにウラン鉱物はコレクターからは愛されていますが、綺麗な花にはとげがあるようにウランの放射能と毒性を無視することはできません。トリウムよりもウランの半減期は短く、放射能は確実にトリウムより高いです。ウランから放出される放射線の多くがα線であるため、10 cmも離れていれば気にならない線量ですが、ウラン鉱物を直接指で持つことははばかられます。特に燐灰ウラン石は雲母のように薄い結晶が積み重なった構造をとるため、指で触ると脆く崩れる可能性があるため粉じんの吸入の恐れがあります。このため、ウラン鉱物を素手で扱ったり大量に蒐集することはあまり好ましくありません。ただ鑑賞する分には何の問題もないので、保管に気を付けながらその妖しくも美しい鉱物を眺めるのが良い楽しみ方でしょう。


私が持っている鉱物も含めて、東京ミネラルショーで展示されていた鉱物を紹介いたしました。ちょっとマニアックな話が多く、面くらってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、最後までご覧くださりまことにありがとうございます。少しでも多彩な鉱物の世界に興味を持っていただけましたら幸いです。鉱物は宝石として人から人に贈られますが、同時に地球から人への贈り物でもございます。地球が長い時間をかけて生み出した奇跡の結晶を化学で知ることはとても楽しいことです。

ちなみに鉱物のほとんどは無機化合物ですが、有機化合物を主成分とする鉱物もあったりします。たとえば琥珀は天然樹脂ですから有機化合物です。もっと構造式が与えられるような形としては、カルパチア石はベンゼン環が六角形に縮環したコロネンという化合物です。ほかにもフィヒテル石18-ノルアビエタンというジテルペンから誘導される有機化合物からなるようです。他にもいくつかあるので、気になりましたら調べてみると面白いと思います。

以上で4回目の私の趣味の話をさせていただきました。趣味の話しか書いていないような気もしますが、好きなことがあるっていいことだと思います。何かが好きという感情はやがて大きな原動力になるかもしれません。私の化学が大好きという感情もいつか実を結べばいいなと思っています。

それではここまでとさせていただきます。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

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久田智也

久田智也

M1東京大学小林研究室
香辛料を持ち歩くほど辛党。でも、おにぎりが好き。

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