ブログ

蛍光とりん光の語源について

Today:4views / Total:494views Written by:

山口研 講師の加藤健太です。最近、急に寒くなってきましたね。私はもうマフラーを出しました。

今回は、Fluorescence(蛍光)とPhosphorescence(りん光)の語源についてお話します。どちらも光を吸った物質の光る性質(光ルミネセンス:photoluminescence)で、見てわかりやすいので好きです。作った分子が綺麗な光を放っているとテンションが上がってしまいます。

Phosphorescence(りん光)はそのままリン(元素記号:P)からきているのは何となく知っていました。では、fluorescence(蛍光)は?Fluorから類推するとフッ素(fluorine、元素記号:F)からなのかな?それぞれの語源が気になったので、少し調べてみました。

語源に入る前に、まずfluorescence(蛍光)とphosphorescence(りん光)のことばの定義を確認しましょう。基底一重項状態(S0)の分子は光を吸収して、エネルギーの高い励起一重項状態(S1)となります。このように光でテンション(エネルギー)の上がった状態は不安定であるため、分子はなんとか吸った余分なエネルギーを放出して元の基底一重項状態(S0)に戻ろうとします。このとき、励起一重項状態(S1)から直接的に基底一重項状態(S0)に落ち着く際に、放出される光をfluorescence(蛍光)と呼びます。一方、励起一重項状態(S1)から、項間交差で励起三重項状態(T1)を経てから基底一重項状態(S0)に落ち着く際に、放出される光をphosphorescence(りん光)と呼びます。

次に、語源がわかりやすいphosphorescence(りん光)から説明します。リン(元素記号:P)は英語でphosphorusといいます。この名前は、phos-(光、輝き)とphorus(もたらす、運ぶもの、産むもの)というラテン語から来ているそうです(ラテン語では「明星」も意味する)。これは、このリン(P)の同素体の一つである白リン(P4)の空気中・室温で徐々に酸化され、熱および青白い光を発する性質から名前がついたのでしょう。白リン(P4)のこの青白い光は、おそらく燃焼からくる化学発光であり、phosphorescence(りん光)ではありません。ですが、りん光の微かな光で輝き、感覚的な的な熱を伴わない性質が白リンの性質と似通っていたため、りん光がphosphorescenceと命名されました。つまり、りん光の「リン」の語源はそのまま元素リンから来ているようですね。

このリン由来の青白い光は、自然界でも腐敗した生き物の周りで見えるようで、日本人は人魂と考えていました。そのため、りん光は人魂を意味する「燐」を当てて燐光と呼ばれて、人魂は青白い炎で描かれることが多いと思います。

続いてfluorescence(蛍光)は、語源的に関連することばが幾つか挙げられます。Fluorescence(蛍光)を筆頭にfluorite(蛍石)もfluorine(フッ素、F)も”fluor”まで共通しています。これらの究極の語源はラテン語のfluor-(流れる、流れ、溶ける)にあります。つづりも全く一緒ですね。

これら関連語の始まりはfluorite(蛍石)です。fluorite(蛍石)は、主にフッ素とカルシウムからなる鉱石で(組成式:CaF2)、純粋なフッ化カルシウムには色は付いていませんが、微量の不純物の含有により黄色から、緑、青、紫、灰色、褐色など豊かな色合いを見せてくれます。ネットで安く売っていたので買ってみました。緑色で綺麗です。

ではなぜ、fluorite(蛍石)には「流れ」を意味することばを冠しているのでしょう?それは、鉱石の精錬が関係しています。fluorite(蛍石)は古くから鉱石の精錬の際に融剤として用いられてきました。鉱石には、二酸化ケイ素(SiO2)からなる石英が大量に含まれており、共有結合で強固な三次元ネットワークを構築しているために、高温にしても融解しません。そこで、精製したい金属を含む鉱石を還元剤とこの蛍石(CaF2)とともに加熱することで、強固な酸素ケイ素結合のいくつかをより強固なフッ素ケイ素結合に置き換えることで、石英のネットワーク構造を切断し、流動体となり、精製が可能になります。そのため、「流れる、流れ、溶ける」を意味するfluor-を使いfluorspar(現在のfluorite)と呼ばれていたそうです。

このfluorite(蛍石)を大元に、fluorescence(蛍光)は、希土類カチオンが含まれるようなfluorite(蛍石)が蛍光を示したこととphosphorescence(りん光)からの類推により、名付けられたそうです。また、fluorite(蛍石)から発見された元素はfluorine(フッ素、F)と名付けられました。つまり、fluorescence(蛍光)の語源はfluorite(蛍石)にあり、フッ素から直接的な関係はないことがわかりました。

蛍石の語源は、加熱した際に割れて光りながら弾ける様子が蛍に似ているからだそうです。蛍光もここから来ていますが、ホタル自身の光は生体発光(Bioluminescence)で蛍光ではないことも面白いですね。

何か新しい現象や概念に名前を付ける際、人類が完全に理解できている/いないに関わらず、コモンセンスに合致し、想起しやすい名前を付けることが多いようですね。そのおかげで、覚えにくかったり、勘違いしやすい専門用語が増えてしまうのですかね?今後、蛍光とりん光を見るたびに、語源まで想像を膨らませて味わっていただければ幸いです。

*これらの情報は語源サイトやwikiなどネット情報で裏取りはしていません。悪しからず。

The following two tabs change content below.

加藤健太

最新記事 by 加藤健太 (全て見る)

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ページ上部へ戻る