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私ときのこと化学と ~珍しいきのこの食レポ~

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秋冷の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。B4の久田です。

秋の陽は釣瓶落としといいますか、日に日に暗くなるのが早くなっている気がいたします。夜の気温も低くなってきておりますので、皆様体調を崩さぬようにお気を付けください。

 

さて、秋になるといろいろな食材が旬を迎え、食欲の秋おいしいものがたくさんいただけます。秋の味覚と言われて思い浮かべるのはなんでしょうか?

秋刀魚や鮭、ぶどう、梨、柿、サツマイモや栗なんかがありますね。カツオの旬は年に二度あって、今の時期は戻りカツオなんて呼ばれてちょうど旬の時期ですし、新米も秋ならではですね。

そして秋の味覚と言われて、きのこを思いついた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、私の趣味であり、私が化学を志すきっかけとなった、きのこについてお話させてください。

 

きのこと言いますと、シイタケ、ナメコ、エノキ、シメジ、エリンギ、マイタケ……と皆様思い出されることでしょう。これらスーパーやデパ地下に並ぶきのこの多くは、(マツタケなどを除いて)人工的に栽培されたものです。ですが、世の中にはもっと多くの種類のきのこがあって、その中には毒きのこもあればおいしいものまでいろいろあるわけです。

そして私の趣味は、このような山野に生えているきのこを探したり、写真に収めたりすることです(ときには食べてみたりもします)。

今までで1000枚以上の写真を撮っていますが、そのうちのほんの少しだけお見せします(きのこの同定は確実とは限りません)。

食品売り場で見るきのことは色も形も違うきのこが多く、多種多様なきのこがあることに気づかされます。そして何より(私にとって)面白いのは、これらのきのこが生み出す化合物です。

例えば上の画像で左上にあるテングタケは、イボテン酸というアミノ酸を含んでいます。

↑イボテン酸(左)とムッシモール(右)

このイボテン酸はタンパク質を作らないアミノ酸で、グルタミン酸受容体に作用するため、摂取すると強いうまみを感じるのだそうです。

ですが、このイボテン酸およびこれが脱炭酸した化合物であるムッシモールはともに神経毒性を持っているため、テングタケは食用にはなりません。

また、中段右にあるロクショウグサレキンの青い色素はキシリンデインと呼ばれるものだそうです。

↑キシリンデイン

このロクショウグサレキンの色素を使って染物なんかもできるのだそうです。

さらに、右下の画像にあるシロタマゴテングタケの毒性分はアマトキシン類と総称される環状ペプチドの一群で、中でもα-アマニチンがよく知られています。

↑α-アマニチン

α-アマニチンはmRNA合成を阻害し、生存に必要なタンパク質を合成できなくすることで毒性を発揮します。極めて毒性が高く、解毒剤もないため、これらを含むきのこによる中毒は症状は重篤で、死亡例も知られています。

もちろんきのこに含まれている成分は毒や色素のみならず、シイタケなどに多く含まれる5′-グアニル酸といったうまみ成分や、マツタケの香り成分である1-オクテン-3-オール、ベニテングタケに含まれるバナジウムを含む化合物、アマバジンなど多岐にわたります。そして、これらの成分に興味をもったのが私の化学の始まりでありました(もっともそのころは化学というものすら知らなかったのですが)。小学一年生の時に、きのこ図鑑の付録に載っていたきのこの成分の構造式が何を意味しているのか全く分からず、親にそれをきいたのがすべての始まりであったことを今でも覚えています。

(記憶にないのですが)私は小学生になる以前からきのこに興味を持っていたようで、親にきのこ図鑑をねだったりしていたのだそうです。いまでも私の部屋には何冊ものきのこの図鑑があります。小さいころからそれらの図鑑を読んでいたので、今でもどこにどんなきのこが載っているかは大体わかるのですが、その中で以前からずっと気になっていた記述がありました。それは、シャグマアミガサタケというきのこについての記述です。

シャグマアミガサタケは脳のような形をした茶色~こげ茶色のきのこで、上の写真にあるアミガサタケと近縁な春のきのこです。このきのこはギロミトリンという成分を含んでおり、これは体内で加水分解をうけるとモノメチルヒドラジンとなります。

↑ギロミトリン(左)とモノメチルヒドラジン(右)

これらは非常に毒性が高く、発がん性も高いことが知られており、とてもではないですがシャグマアミガサタケは食べられそうにありません。

しかし、シャグマアミガサタケの学名はラテン語で「食べられる」を意味しています。実は、これらの毒性分は水に溶けやすく、かつ揮発しやすいため、シャグマアミガサタケはゆでて毒抜きをすれば食べられるというのです。実際、北欧では食べられているそうです。ただしどの図鑑でも「シャグマアミガサタケは毒性が高く、ゆでた蒸気による中毒例も知られているため、食べてはならない」などと記載してあります。

ですがそんな毒のあるものを北欧の人たちが、蒸気による中毒というリスクを知りながらも食べているというと、よほどおいしいのではないかと勘繰ってしまうのです。だって日本のフグだってそうでしょう?フグは食いたし命は惜ししというやつです。

そしてついに私に好機が訪れました。私の母がフィンランドに旅行してくると言ったのです。海外旅行が好きな私の母ですが、私はここぞとばかりに無理なお願いをしてみました。

「シャグマアミガサタケをお土産に買ってきてほしい。」

 

そして母が旅行にいってから10日ほどたったころでしょうか、母からメールが来ました。

「本当にあってるか分からないけど、きのこ買ってきたよ。」

最初はあまり期待していなかったのですが、実物を見るとあまりの驚きで声が出ませんでした。

「これだ」

シャグマアミガサタケの乾燥品ですが、もう見るからに毒々しいです。ちゃんと裏には毒きのこであることが明記されています。母に感謝。

丁寧なことに処理の方法を多言語で書いてあって、水に浸した後に2回ゆでて、ゆでるたびにきのこを洗うことやゆで汁は料理に使わないこと、換気の良い場所で調理することなどが書かれています。

実はこのきのこの毒成分は、先ほども申し上げたように揮発性であるため、乾燥させてある時点でかなり減っているとのことです。

ですが油断は命取りです。早速説明書きににしたがって調理してみましょう。

そしてゆでたものがこれです。

お前やっぱりやべー見た目してるな……

しかしこの瞬間を何年間楽しみにしていたことでしょう、ここで食べないわけにはいきません。

どう食べて良いのかよくわからないので、ポタージュのようにしていただくことにしました。

とてもおおざっぱであるのはさておき、シャグマアミガサタケポタージュ(?)の完成です。

お、おぉ……

いただきます。これでダメだったら最悪、最後の晩餐となったところですがいただきました。

ズズズ……もぐもぐ……

うむ、悪うない。

味は強くはないがシイタケに近く、食感はきくらげほどコリコリしているわけではないがぷりぷりしていて、香りは山のきのこっぽい野趣に富んだ良い香りです(イタリア料理とかで出てくる高級きのこ、ポルチーニに近い)。

うむうむ……もぐもぐ……ジャリッ!!

?!

大粒のきのこを食べていると、歯でジャリジャリしたものを感じます。どうやらこれはシャグマアミガサタケが成長する際に、内部に取り込んでしまったのようです(シャグマアミガサタケの頭の部分は空洞で、この中に砂が入りやすいようです)。ちゃんとフィンランド版Wikipediaには、砂を取り除いてから食べることと書いてありました。

……そんなの知らないよ!少なくとも日本版Wikipediaには書いてありません。図鑑にも載っていません。注意書きにも書いてありませんでした。

しかしこうして私は、図鑑でもネットでもなかなか知ることのできない情報を手に入れたのです。そしてシャグマアミガサタケの味についてもです。

命を懸けてまで食べるほどの価値があるかはわかりません。ひっくり返るほどおいしいというものではないので、そこまでの価値はないでしょう。しかし、これくらい気軽に食べられるのならまた食べてみたいと思えるような味でした。今度はちゃんと砂も洗い流して食べるぞ。

 

というわけで、結構長くなってしまいましたが、私のきのこの話と毒抜きした毒きのこの食レポは以上です。

本当は延々ときのこの話を書くこともできるのですがここで一旦やめます。ですが、きのこについて化学の観点からやそれ以外の観点から、少しでも興味を持っていただける方がいらっしゃったのなら幸甚です。いつかどこかで機会があれば、再びきのこの話を書きたいのですが、今のところ違うネタも考えております。

それでは研究室とは全く関係のない内容でしたが、次回をお楽しみに!最後までご覧いただき誠にありがとうございました。

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久田智也

久田智也

香辛料を持ち歩くほど辛党。でも、おにぎりが好き。

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